集英社ビジネス書

試し読み

第二章

「なぜかお金が貯まる人」の一日

5 今、財布の中にいくら入っているか、言えますか?

 この本を読んでくださっているあなたに、今すぐしてもらいたいことがあります。自分の財布を、テーブルの上に置いてください。中を開けてはいけません。
 目の前にある財布の中に、いくら入っているのか、あなたは言えますか?
 あなたはいつ口座からお金を下ろし、財布に現金を入れましたか?その後、あなたはいくら使ったでしょうか。今、財布には何円残っていますか?

 予想してみてください。答えを決めたら、財布を開けて確認してみましょう。一円単位まで正確に数えてみてください。
 答え合わせの結果はいかがでしたか?正しく予想できていましたか?

 誤差が五百円未満なら、大丈夫。あなたはちゃんとお金の管理ができています。
 誤差が三千円以上の人は、残念ながら失格です。自分のお金に鈍感すぎます。一円単位まできっちり答えられる人には会ったことがありませんが、いるとすればその人は「お金のお片づけ」の達人です。貯金もできているに違いありません。

 「自分の財布の中身当てクイズ」をしてみると、予想以上に小銭が多くて驚く人がたくさんいます。大半の人が、千円未満の小銭は把握できていません。
 小銭はまだしも、お札の枚数も間違ってしまうようでは、問題ありです。そのような状態では、お金が貯まるはずありません。まずは、今持っているお金に興味を持ち、把握しましょう。自動車のスピードメーターは、いつもその瞬間の車の速度を示しています。「一時間前に時速百キロメートルでした」と言われても、何の役にも立ちませんよね。お金も同じです。今この瞬間にいくらあるのか、いくら使っているのか、それが明確にわかっていることが大事なんです。

 財布のお金の確認が終わったら次の質問です。
 あなたは、貯金がいくらあるか言えますか?
 貯金額を知らないのは、自分の体重を知らないのと同じです。口座をたくさん持ちすぎて、どこにいくらあるのかわからなくなっていませんか?複数の口座に預けていると、コントロールは難しくなります。銀行口座を見直し、必要最小限の数に減らすこともお金のお片づけです。僕は、口座をひとつにまとめています。ですから一冊の通帳を見るだけで、お金の流れがはっきり明確につかめます。できるだけシンプルにすることも、貯金を上手にするコツです。

6 僕が実践している「三万九千円の法則」

 手帳術のくわしい方法をお伝えする前に、「お金のお片づけ」を習慣にしている僕の一日の過ごし方を紹介します。僕には、毎朝している「お金のお片づけ」の習慣があります。それが「三万九千円の法則」です。

 僕は毎朝、銀行ATMに行き、三万九千円を引き出します。
 三万九千円は、僕の一日の予算です。交通費も食費も、ちょっとした買い物も、すべてその額の中で収めます。そして残った分は翌日の朝、小銭も含めて全額口座に戻します。毎朝、僕は前日に使わなかった分を預け入れ、改めてその日の予算である三万九千円を下ろすのです。
 こうすることで、一日に自分が使う金額を簡単に把握することができます。毎朝、一定額が財布に入っているので、「さっきタクシーに乗って何円使ったから、残りは何円」というふうに、計算もしやすい。だから僕はいつでも、財布にいくら現金があるのか言えます。誤差も五百円以内に収める自信がありますよ。
 また、毎朝記帳することで、日々のお金の流れが一目瞭然にわかります。この日は使いすぎたなとか、この日はムダづかいしないいい日だったな、ということが数字となって通帳に並ぶので、ぱっと見て理解できるんです。僕にとっては、毎朝の記帳が家計簿の代わりです。家計簿をつけるより何倍も楽で、何倍も効率がいいんです。
 毎日の日付と、その日残った額が自動的に印字される通帳は、日記のようなものです。通帳を見れば、どういう時期に多く使う傾向にあるのかなど、自分のお金の使い方のクセもよくわかるようになります。お金を上手に把握するために、通帳を大いに活用しましょう。

 昨日使わなかった分を毎朝すべて銀行に戻すことで、昨日までのお金を片づけた、という実感もわきます。昨日のお金をリセットして、今日の一日を新しいお金で過ごす。気持ちを切り替えることで、毎日をすがすがしく過ごせます。小銭を財布に貯め込まないで済むのも、メリットです。小銭がじゃらじゃら入って重く膨らんだ財布は格好がいいものではありません。それに、小銭が多くなりすぎると、財布にいくら入っているのか、把握がどんどん難しくなってしまいます。
 小銭専用の貯金箱を作ってお金を貯める、という方法を実践している人も多いと思います。僕は毎朝、それと同じことを銀行でしていることになります。僕は貯金箱よりも銀行で貯めるほうがお金は貯まると思います。なぜなら、口座を使えば数字として通帳に印字され、常に金額が目で見えているので、お金として実感しやすいからです。

 ところでこの法則は、「毎日三万九千円使っていいよ」というものではもちろんありません。あくまで、僕が使っていい一日の上限額が三万九千円ということ。余る日が大半です。接待といった特別な出費が予定されていない普段の生活なら、僕の場合、三万九千円あれば十分。たとえ、突然後輩を連れて飲みに行っても恥をかかない、過不足のない額なんです。
 「お金のお片づけ」をするようになってから、僕は毎日レシートの整理をし、日々のお金の使い方を分析しながら、自分にとってちょうどいい出費のサイズを探りました。そしてたどりついたのが三万九千円という額でした。中途半端に思える「九千円」は、タクシー対策。仕事柄タクシーに頻繁に乗るので、千円札を多めに用意しておいたほうがいいんです。
 僕にとっては「三万九千円」だけれど、自分にちょうどいい額は人それぞれに違います。生活スタイルによっても、職業によっても、年齢によっても違うでしょう。まずは自分の普段の出費のサイズを知り、最適額を見極めてください。
 突然、電車の運行が止まってタクシーに乗って帰らなければならなくなるなど、不測の事態も考えられるので、備えとして多めに持っておいたほうがいいのはもちろんですが、たとえば、普段はランチに行くのが習慣で、本屋さんでほぼ毎日何か本を買い、帰りがけにはたいていスーパーに寄るという人なら、一日に五千円もあれば事足りるのではないでしょうか。毎朝、その日を過ごすための五千円を口座から下ろし、その中で生活をする。たいていの場合、余る日がほとんどです。余った分は、小銭を含めてすべて翌朝、口座に戻す。これを繰り返していけば、完璧な管理ができるようになります。

 まずは一週間続けてみるだけでも、財布の中のお金が把握しやすくなり、驚くほどムダづかいが減っていくのが実感できると思います。そして一カ月続ければ、お金が貯まり始めます。
 大切なのは、毎日一定額にすること。自分にとって「ムダづかいしていない」と思えるギリギリの額に設定してください。そして、毎朝、銀行ATMでその日使う分のお金を新しく用意し、同時に昨日のお金をリセットします。

7 朝いちばんに、その日使うお金のシミュレーションをしよう

 毎朝、僕は一日のスケジュールを確認します。そのとき同時に今日いくらお金を使う予定なのか、シミュレーションしておきます。
 旅行のときは、誰でもちゃんと予定を立ててシミュレーションすると思うんです。「飛行機代にいくらかかって、ホテル代はいくらで、あとはお土産代と、食事代と、交通費がいくらだから、総額このくらい。飛行機代とホテル代はクレジットカードで払ったから、現金は三万円持っていれば大丈夫かな」というふうに。こういう計算を、旅行のときだけではなく、日常的に行うと、お金の使い方が変わってきます。
 僕は、多いときには一日に十件以上のミーティングをこなします。すべてをこなすには、移動距離やかかる時間も含めて綿密にシミュレーションしておくことが必要です。朝、一日の予定を細かく頭の中で組み立てていき、「ここでタクシーに乗る。だいたい何円くらいかかるだろう」などと、その日の出費を予想します。予想通りに一日が終わると、「ムダづかいせずに済んだ、いい一日だったな!」と、気分もよくなります。
 「人生は思い通りにならない」と言う人がいます。でも僕は、人生ってけっこう思い通りになると思っているんです。東京駅を目的地に出発したのに、着いたらなぜか大阪駅だった、なんてことはありえないですよね。自動販売機にお金を多く入れたらおつりはちゃんと戻ってくる。缶コーヒーのボタンを押したのにオレンジジュースが出てくることはないし、青い服を買ったのに家に帰ったら赤色になっていたなんてことも絶対にない。そう考えると、人生って、思った通りになっているんです。
 コーヒーが飲みたいなと思って喫茶店に入ったあなたは、コーヒーを飲むのに必要だと思われる金額は持っていくでしょう。まさか十円玉二枚だけ握りしめて店に入る、なんてことはないはずです。コーヒーの値段をちゃんと想定できているからです。明日、大事な会議があるなら、遅刻しないように時間を逆算して早めに会社に到着するようにもするでしょう。これもシミュレーションの結果です。人間はシミュレーションがとても得意な動物で、想定したことを実現するように行動するのです。僕たちの生活は、日々「自分の思った通り」になっています。それなのに「思い通りにならない」と感じているのは、シミュレーションが十分にできていないか、「本当は思った通りになっている」という事実に気付いていないだけです。
 お金についても、まったく同じ。「お金が貯まらないかなあ」「お金持ちになれないかなあ」とぼんやり思っていても、お金は貯まりませんし、入ってきません。ですが、「今日使うお金はこれだけにしよう」とシミュレーションしておけば、それ以上に浪費してお金を減らすことはなくなります。
 だらしなかったころの僕は、行き当たりばったりに行動することが多かったんです。でも、そういう生き方では損することは多くても、得られるものって少ないと思うんですよ。行き当たりばったりだとお金も時間も減る一方だからです。
 デートをするにしても、「よし、今日、彼女を口説くぞ!」と思うところから始まるんだと思います。「ホテルのロビーで待ち合わせして、レストランに行って食事しよう。食事中にはこんな話をしよう。盛り上がったところでバーに行こう。だからお金はこのくらい用意しておこう。二軒目に入るのがだいたい何時ごろで、そこで本題に入って口説き落とそう。そうすれば何時ごろに手を握れるはず……」。こんなふうに綿密に考えて実行すると成功率も高まるし、なんといっても楽しいんですよね。「何駅に、何時ごろね」とざっくりした待ち合わせだけをして、その後の計画もしていないようでは楽しいデートはできません。そういう考えの持ち主は、お金にもルーズなはずです。
 何をするにもシミュレーションほど大事なものはない。これが僕の持論です。

8 銀行口座からお金を下ろすのは一日一回だけ!

 一日の始まりにその日の行動と出費のシミュレーションをしたら、銀行ATMにお金を下ろしに行きます。僕の場合は通常、毎朝三万九千円ですが、接待などがある特別な日はシミュレーションで算出した額をもとに、その日必要と思われるだけのお金を下ろします。
 お金を下ろすのは朝の一回だけ。一日に何度もお金を下ろしに行くことは絶対に避けましょう。それは時間のムダです。また、一日の途中でお金が足りなくなってATMに走るのは、いかに自分のシミュレーションが甘かったのかということの証拠でもあります。

 僕自身、過去には一日に三回くらい下ろしていたこともあるんです。お酒を飲んでいて会計の時に足りないことに気付いて、「ごめん、ちょっと下ろ してくるわ」と言って近くの銀行ATMに走ったり。タクシーに乗っているときに財布の中身が足りないことに気付いてコンビニの前で停めてもらったり。もちろんその間も、タクシーのメーターは上り続けています。カッコ悪いだけではなく、完全なムダづかい。僕がこんなふうに何度もATMに通う羽目になっていたのは、行き当たりばったりに行動していたことと、出費の予測をつけられていなかったのが原因です。
 コンビニのATMや銀行ATMを時間外に利用すると手数料がかかります。時間外に一日に三回も下ろしていたら、手数料を三百円以上も払っていることになります。これを一カ月続けたら、自分のお金を下ろしているだけなのに、一万円近くも手数料を払っていることになるのです。お金を下ろすなら、手数料がかからない時間帯に、しかも毎日一回だけ。これを徹底して守るべきです。

 一週間にかかる費用をまとめて週の初めに下ろしておく、という方法もおすすめしません。ATMに通う手間は確かに省けるのですが、節約効果は疑問です。実際に、僕も一時期この方法を試してみましたが、一週間を過ごすつもりで下ろしたお金が数日でなくなってしまうのでやめました。手元にお金があると、どうしても使ってしまうのが人間です。貯金をすることが苦手な人や、長期的な計画が苦手な人がこの方法をとるのは危険です。一週間単位よりも、一日単位でお金の流れを考えましょう。そのほうが金額も小さいのでわかりやすいです。また、一日の行動と合わせて考えることで、出ていくお金のコントロールもしやすくなります。

9 お金を片づけるには、まず、トイレとお風呂の掃除から

 朝起きると、僕がまずすることはトイレとお風呂の掃除です。汚れていなくても掃除します。朝、水回りをきれいにすると気持ちがスッキリするのです。

 僕がこの習慣を始めたのは、ある会社の社長さんに「トイレとお風呂掃除を毎朝してみなさい」とアドバイスを受けたことがきっかけでした。成功している人は、経営者となっても毎朝トイレを掃除し、自分を律しているのです。
 お金と向き合うことと掃除をすることは、一見何の関係もないように思えます。ですが、これが本当に大事。実践してみて僕はそう痛感するようになりました。

 もともと僕はだらしない性格です。そんな僕が日々の生活をまじめに続け、整理整頓をサボらずにいるためには、一日のスタートが肝心です。「トイレを掃除する」という行動を朝いちばんにとることで、「今日もちゃんと暮らそう」とスイッチが入るんです。
 トイレ掃除を終え、シャワーを浴びたら、簡単にお風呂の掃除もしてしまいます。カビそうなところに薬剤をスプレーして、シャワーの水をかけるだけの簡単な掃除です。でも効果はばっちり。汚れる前に毎朝洗っておくから、お風呂はいつもピカピカです。以前の僕は「汚れたら掃除しよう」と思っていました。しかしその考え方が、けじめのない生活を呼び込むもとなのです。汚れる前に毎日掃除すれば、お風呂も部屋も、汚くなりません。

 そして、このように考え、行動することを習慣にしていくと、お金との付き合い方も自然と丁寧になっていきます。
 「今日から自分のお金をちゃんとコントロールしよう!お金のお片づけをしよう!」と決意したなら、同時に部屋の整理整頓も心がけてください。お金だけ片づけようと思っても、たぶんうまくいきません。
 読んだ本をきれいに並べる。ベッドメイキングをする。脱いだ靴はそろえる。脱いだ服は洗濯かごに入れる。洗濯ものは畳む。

 どの行為も、直接お金に関係するものではありません。しかし、すべてがお金を大切にする生き方に関係しています。スッキリした場所からスッキリした生活が生まれ、ムダづかいのないお金の使い方ができるようになるわけです。

10 一日の終わりには、必ず財布をきれいにしよう

 一日の仕事が終わって帰宅したら、寝る前に財布をきれいに整理します。まずは、中身を全部出しましょう
 お札は何枚残っていますか?小銭は幾ら残っていますか?

 次に、今日の一日で集まったレシートと領収書を見直します。今日、あなたはいくら使いましたか?
 朝引き出したお金から、レシートと領収書の額を引いてみましょう。今日の残額と、計算はちゃんと合いますか?

 計算が合っていれば、あなたは今日、朝のシミュレーション通りに過ごせたということ。とてもいい一日の過ごし方ができたはずです。
 数百円の誤差が出ることも、よくあります。そういうときは、何が原因でできた誤差なのか突きとめましょう。お釣りをもらい損ねた可能性もありますし、レシートや領収書を受け取り忘れた小さな出費があるのかもしれません。とにかく、誤差を誤差のままにしないことが大きなポイント。一日の出費の流れを、その日のうちに、すべて明らかにしておきます。
 自分が一日に使った金額と、レシート、領収書と、預金通帳の金額が誤差なくぴったり計算が合うと、「やったー!今日はぴったんこ!」とうれしくなります。まるで数学の問題が解けたときのような喜びがわき上がります(笑)。数字がきれいに並び、整合性がつくと単純にすごくうれしいんですよね。
 レシートがぜんぶゾロ目だったとか、金額を足していくと七千七百七十七円で七ばかりそろったとか、本当にどうでもいいことだけど、僕はそれさえ楽しんでいます。「七が並んでる。今日はラッキーな一日だったな!」というふうに。

 レシートと領収書を毎日整理すると聞くと面倒な印象を受ける人もいるかもしれませんが、一度この楽しさを知るとやみつきです。むしろ、やらないとスッキリしなくて落ち着かなくなるでしょう。僕は、今では寝る前に財布の整理とレシートと領収書の見直しをしなければ眠れなくなってしまいました。歯を磨き、お風呂に入らないと落ち着かないのと同じです。
 毎晩、自分の出費を見直し、財布をきれいにする。それを一日の終わりの習慣にしましょう。

ページの先頭に戻る

SHUEISHA Inc. All rights reserved.